「G」の系譜。
1979年、当時の日本電信電話公社(現在のNTT)が自動車電話サービスを開始しました。使用範囲は東京23区内、重量は7kg。これが、国内最初のモバイル通信とされます。1985年には、肩がけの携帯電話が登場、1987年には1kgを切る重量の携帯電話が発売され、4年後の1991年にはNTTドコモが重量230gで手のひらサイズのムーバシリーズを発表しました。この間、通信規格として採用されていたのが第1世代移動通信システム、通称「1G」。アナログ無線技術を応用し、モバイルとその可能性を社会に生み出しました。
1990年代初頭には、第2世代通信システム=「2G」としてデジタル無線技術が登場します。通信品質が劇的に向上しただけでなく、電子メールやウェブに対応できるようになりました。携帯のデザインも多様性に富んだものになり、折り畳み型携帯電話やPHS、さらにスマートフォンの前身とも呼べるPDAなどが登場します。2G後期には、世界初の携帯電話IP接続サービス「i-mode」が登場。2001年には、NTTドコモが世界に先駆けて第3世代移動通信システム=「3G」の商用サービスを開始し、デジタル通信技術の高速化と安定化を実現します。3G下において、携帯電話は社会に定着、爆発的に普及していきます。携帯電話にデジカメが搭載されたのもこのときです。3G後期には、LTEやWiMAXといったより高速化された通信規格が登場し3.9Gと言われ、この時代とスマートフォンの黎明期が重なります。そして転機は2007年に訪れました。「iPhone」の登場です。
2011年の数字をみると、日本全体の携帯電話の95%以上を3Gが占めていたことがわかります。世界では2Gの携帯電話普及率が圧倒的に高く、日本の3G普及率は突出していました。名実とともに日本がモバイル分野のトップを走っていたということです。1G、2G、3Gの進化は物理的なハードウェアの姿形を大きく変えてきたので、社会的にも比較的イメージがしやすい一方で、iPhone登場後のハードウェアの形状進化はほとんどなくなりました。これは誕生から13年を経た今でもほとんど変わりません。それまでは、多種多様な携帯電話が半年に1度のペースで大規模に発表されていましたから、製造から販売分野にいたるすべてに巨大な地殻変動が起きました。こうした中で2010年代に入り、3Gの100倍の通信速度をもつ「4G」が登場、社会はスマートフォンへシフトしていきました。
4Gが変えたコミュニケーション。
4Gにおいては、特に「コミュニケーション」と「情報の姿」が劇的な変化を遂げました。スポーツで言えば、試合中の選手の動きを可視化することで、練習中のトレーニングメニューを改変し、新しいチームコミュニケーションにつなげることが可能になったように、世界中の政治、経済、スポーツといった分野において、情報の可視化が進み新しいコミュニケーションを生み出していきました。デジタル放送を通し、テレビ画面上にも多種多様な情報が映し出されるようにもなり、情報媒体が独占していた広告市場もネットによって融解し、今は何が広告で何がジャーナリズムなのか不明瞭になりつつあります。この流れは世界中の至る所、至るサイズのコミュニティで同時多発的に起こり、現在もなお、拡散しています。
4Gは、それまで異なる分野として成長してきたモバイル通信と、社会インフラとして成長してきた超高速通信網との差を一気に縮め、融合させることに成功し、爆発的な成長スパイラルを生みました。では、5Gの世界はいったいどのようになるのでしょうか。
モノの可能性がネットにつながる。
5Gの世界を少し紐解いてみます。それは、本格的なIoTツール群の登場が確実視される世界です。これは単に、家電がネットにつながる、といったレベルではありません。すでにIpV4で枯渇が近づいているIPアドレスの付与も、IpV6への移行が行われつつあり枯渇の心配を回避することができそうです。家庭で見れば、家電や家具、車にいたるまで数十〜数百に及ぶアイテムがありますが、これらすべてにIPアドレスを付与することも可能です。これによって、世界中にあるモノというモノがネットにつながる可能性を手に入れます。
車でイメージしてみましょう。ほとんどの車はGPSで居場所を把握可能なナビゲーションシステムを備えており、これは単独の車が位置情報を送受信している状態です。5G世界においては、IPアドレスが付与された車がネット端末になるので、相互で情報の交換や共有を行うことができるようになります。例えば、ある車が目的地を設定し移動し始めると、半径5km圏内にいる数百の車すべてに自分のルートを発信し共有します。すると、1km先からやってくる車と2分後に交差点で接近することが想定されることから直前で減速し一旦停止し、直後に右折進行してきた車とすれ違う、といった具合です。もちろん、目視できる範囲もAIがカバーしているため、目の前の横断歩道を渡る人間にもしっかり注意を払います。
こうなれば、車が「事故を起こさない存在」になる可能性が高まります。実現すればボディ素材に高い金属剛性が求められなくなり、より軽い素材にシフトするかもしれません。軽くなれば燃費は飛躍的に伸びますし、製造にかかる環境負荷もより軽微にできます。今の車のようなデザインが求められることも、運転することもなくなるかもしれません。となれば、車を保有する必要すらなくなりますし、シェアリングエコノミーのさらなる発展も考えられます。IoTツール化したプロダクトが社会インフラ化すれば、全く新しい産業構造の扉が拓くかもしれないのです。この可能性が、ありとあらゆるプロダクト、建築、インフラといった分野とつながっていきます。もちろん、通信の高速化だけでは実現できず、各ネット端末の情報処理能力をさらに強化する必要がありますし、IpV6対応のインフラ機器の増加や革新、AIの進化も求められるでしょう。こうして、4G世界においてすべての人々の可能性がネットにつながったのと同様、5G世界ではすべての”モノの可能性”がネットにつながり、「モノ」が一気に時代の主役に躍り出ることも十分にあり得るのです。
人とモノが織りなす未来。
世界では気候変動の深刻度が急速に高まり、こうした気候変動への対策をはじめ世界の課題解決に向けた指標として国連が主導するSDGsは世界中の金融機関を巻き込むことに成功し、大きな力を持ったルールとしての認知が浸透しています。この状況において、IoTがはたす役割は、単なる利便性を超え、人類が抱える課題の解決と向き合うことにもなりえます。ひょっとすれば、5GとIoTが生み出すものは、私たち人間に代わり、モノが主役になったかのように感じさせるのかもしれません。それでも、新しい社会の形を希求し、具現化していくのはやはり私たち人間です。人とモノの可能性がつながり織りなす社会はどのような未来を我々に見せてくれるのか。今、豊かな社会の実現に向けた新次元の挑戦を続けている人物に話を聞いてみました。(#2『「IoT」が日本にもたらすもの。』に続く)