2015年、JNSホールディングス(当時の社名はネオス)はIT機器開発・製造を手掛けるJENESIS株式会社(以下、JENESIS)と業務提携を結び、2018年に同社の子会社化を経てグループとして共に歩みを進めてきました。JENESISの代表取締役社長 CEOである藤岡淳一は、IoTの有用性に多くの企業が目を向ける前から、いまや世界一と言われるハードウェアのサプライチェーンを構築する中国・深圳を拠点とし、時代の変化を第一線で見つめ続けてきた稀有な存在です。「IoT」をテーマにした今回のインタビューでは、藤岡が見つめるIoT化の現状と未来について取り上げます。
- 藤岡淳一
JENESIS株式会社 代表取締役社長 CEO (兼 JNSホールディングス株式会社 代表取締役副社長) 大手電機メーカーに就業後、2002年頃から台湾・中国に駐在、各種デジタル機器の開発・生産に従事する。2011年に中国でJENESISを創業し、翌年に日本法人を設立。現在は同法人の深圳工場で、主に日本企業向けのデバイスを製造受託し、企画設計からプロトタイプ製作、量産化や保守までワンストップで支援をおこなう。
中国の後ろを歩く日本。
IoT領域で、中国が日本の遥か先をいっていることは一目瞭然です。人口こそ増加している中国ですが、急速に成長を遂げたGDPによって物価や人件費は高騰、その分膨れたコストをICTやAIによって解決しようという取り組みは数年前から活発におこなわれてきました。日本ではようやく浸透しつつあるキャッシュレス化も、中国は5年ほど前から取り組んでおり、飲食店などでは机に貼られたQRコードをスマホで読み込めば注文から決済まで完結する仕組みがすでに成り立っています。
10〜15年の間に中国がここまで変化を遂げることができたのは、捨てるものがなかったことが大きいと思います。今の深圳で活動をする人の平均年齢は32歳ほどで、彼らはフィルムカメラやカセットテープ、レコード盤に触れたことがありません。アナログに愛着がない分、ITを浸透させることに抵抗がなく、デジタルトランスフォーメーションをスムーズに進めることができたのでしょう。
一方の日本は、この20年間でデバイス関係や半導体、液晶パネル、パソコン、家電など世界のトップレベルにいたはずの技術を全て失いました。世界に向けた革新的な挑戦を続けてこられなかった製造業に優秀な若者は集まりにくく、結果として現代に新しいアイデアを生み出しているIT企業に注目が集まります。そのため、UI/UX、ゲームは作ることができるけれど、ハードウェアを設計・開発できる人材は極端に減りました。いざIoTやAI、5Gが動き出した今も、日本には回路や図面を書ける人が十分にいない状態です。当社でデバイスを製造させていただいた「POCKETALK(ポケトーク)W」や「POCKETALK S」が、日本の大手製造メーカーではなくソフトを中心に開発してきたソースネクスト株式会社から誕生したことも、現状をよく表していると思います。
深圳と軽いIoT。
日本がハードウェアの製造をやってこなかった20年間、むしろハードウェアの製造しかやってこなかった深圳を拠点にしている我々にとって、これからが出番なわけです。我々が手がけているのは、国家的な取り組みが必要な船舶や建築といった重いIoTとは異なり、センサーを設置し情報を集計するだけで簡単に動かせるような“軽いIoT”と呼ばれる領域です。少子高齢化による人手不足が進む日本では、今までは人がモニターを通して目で確認していたものを、軽いIoTによって機械で担うといった事例が急激に増えています。
我々は、今までIoT化を全くやってこなかった日本企業に対して、深圳のサプライチェーンを活用することで、すべてのお客様を対象とした日本のIoT化に貢献できると思っています。面白いことに、IT化に待ったなしの日本とすでにプラットフォームが完成している中国では、抱えている問題もそれを解決する手立ても非常に似ています。ゼロベースでプラットフォームを構築してきた中国を見本にしない手はありません。
白い画用紙はどこか。
我々がデバイスの製造をさせていただいているお客様の中には、ソースネクストの「POCKETALK」シリーズやJapan Taxi株式会社(現:Mobility Technologies)の「決済機付き車載サイネージタブレット」のような最初からやりたいことがはっきりしている企画もあれば、何がどう出来るのか全くわからないという状態で相談に来られるお客様もいます。どちらの場合でも、デバイスを量産することを考えれば企画構想から携わらせていただいた方が最適化しやすいというメリットがあります。我々はデバイス専門家としての黒子であり、メニュー表のない料理屋のような存在でもあるため、持っている技術を「こういう風に使えます、こういった部品があります」と提案することでIoT化の知識やノウハウがないお客様にも力になれると考えています。
また、デバイスの製造のみを手がけてきた我々が、アプリやサーバーのエンジニアを数多く抱えているネオスとグループ会社になったことで、デバイスの試作から量産だけでなく、アプリからサーバーまで一貫したものづくりを担えるようになりました。考え方によっては、IoT化を全くやってこなかった日本企業というのは、真っ白い画用紙なわけです。中国が何もないことを強みにしてプラットフォームを築いたように、我々もゼロの状態から日本企業に対してIoT化を進めることで、日本のデジタルトランスフォーメーションを実現できるのではないでしょうか。今後IoT化が加速する日本で、この2社による連帯は日本のあらゆるニーズを満たしていくと思います。
無茶振りが持つ可能性。
製造を担当させていただいた「POCKETALK W」や「POCKETALK S」は、スマートフォンにもともと組み込まれていた機能が一人歩きした良い例です。これはクラウド側の音声認識や翻訳機能がAIの学習により性能が高まったことで、翻訳機としての可能性がスマートフォンの枠を超えました。会話のシーンで利用するものだからこそ、立ち上げもWi-Fiの設定もスムーズな方が良い。声を正確に読み込むためにもデバイスは対話相手の手元に渡し合えるものが良い。サービスが成熟すると、デバイスとしての新たなマーケットが生まれる可能性が高まるというわけです。
そしてこれからは、よりハードウェアのことを知らない人がハードウェアを生み出していく時代が訪れると考えています。それは決して悪いことではなく、構造を知らないからこそ生まれる発想があり、技術革新の可能性が広がるということです。これまでも小ロットに対応したり、無茶振りにも対応可能な体制をできる限り整えようと取り組んできましたが、これからはよりその部分に投資が必要だと思います。単純にお金をかけて規模を大きくしていくということではなく、ハードウェアを知らない人がハードウェアを考える時代への投資です。
これは一見、世の中が削ぎ落とそうとしているところに向かっているように見えるかもしれませんが、日本のIoT化はそのくらいの覚悟がないと実現不可能だということです。現状では、我々の動きに深圳のプラットフォームが適しているので最後の一滴まで活用しようと考えていますが、それも永遠だとは思っていません。どこの国で製造しているかが、ものの品質を保証する時代ではないので、常にフレキシブルに対応していくつもりです。我々のようなデバイスの製造会社が、2,3年先を考えながらある程度のバランスをとって動けるのも、ITグループに属している利点だと思います。今後このユニークな組み合わせが唯一無二のサービスを生み出すことに、私はかなりの自信を持っています。
続きはこちら「#3 「IoT」が根付く仕組み。」