特集|「IoT」とはなにか。
#3 「IoT」が根付く仕組み。

JNSグループの主要事業会社であるJENESIS株式会社(以下、JENESIS)は、ハードウェアとソフトウェアの開発を担うエンジニアリング集団、株式会社ミラと2018年より業務提携を結んでいます。経営者同士である藤岡と松井氏は、産業が迎える未来について熟考を重ねるIoT化の架け橋的存在です。産業の仕組みに「新しい」を吹き込む、二人の思考を紐解きました。

fujioka.jpg藤岡淳一JENESIS株式会社 代表取締役社長 (兼 JNSホールディングス株式会社 代表取締役副社長)
大手電機メーカーに就業後、2002年頃から台湾・中国に駐在、各種デジタル機器の開発・生産に従事する。2011年に中国でJENESISを創業し、翌年に日本法人を設立。現在は同法人の深圳工場で、主に日本企業向けのデバイスを製造受託し、企画設計からプロトタイプ製作、量産化や保守までワンストップで支援をおこなう。
matsui.jpg松井健株式会社ミラ 代表取締役社長
ソフトウェアのエンジニアとして就職後、株式会社モンスター・ラボの創業メンバーとして参画。スマホアプリやWebシステムの開発を経て、2011年にIoTデバイス開発会社ミラを創業。2018年にはMira Robotics株式会社を創業し代表取締役CEOに就任。2019年2月には家事支援サービスロボット「ugo(ユーゴー)」を発表した。
※取材当時

お二人が一緒に仕事をするようになった経緯を教えてください。

藤岡「開発の受託から製造の受託までやっているITのスタートアップ企業は、意外と少なくて狭い業界なんです。その中で頂いていた仕事の委託先が松井さんの会社で、自然な流れで何件か案件を一緒にやらせていただきました。
確か3年くらい前ですね。松井さんが深圳で法人を立ち上げる際のバックアップを我々でさせていただいて、結果的に双方の仕事を広げる結果に繋がりました。その後松井さんが遠隔操作ロボットのベンチャーを立ち上げた時は我々も手伝う事になり、それから展示会なども合同でやるようになりました。今はどちらに仕事がきても連携を取れるようになっていて、窓口がふたつある形をとっています。 」

松井「前職は、ウェブやスマホのアプリを開発する会社でソフトウェアのエンジニアとして働いていました。当時はゲームを開発することが多かったのですが、ソフトバンクからiPhoneが発売され、BLE(Bluetooth Low Energy)を使って様々なガジェットとスマホが繋がるようになった頃、私もものづくりに惹かれてハードウェアを作る会社を立ち上げました。
その頃は、ハードウェアに対する知識が乏しかったので知見のある方たちのコミュニティに積極的に顔を出していて、仕事の関係性ができる過程で藤岡さんとも知り合いました。 」

お二人が話すテーマで出番の多いものはなんですか。

藤岡「我々同世代で、どうやってこの産業を守りながら大きくしていこうかと、意外と大きな話をしてしまうことが多いです。面白いものに飛びつくというより、チームとしての成長や仕組みそのものについて話しています。」

松井「日本がこれからどうやって世界と渡り合っていくかは、我々にとって非常に重要なテーマです。今までは、日本がこれまで培ってきた技術や品質、プライドによって支えられていましたが、最近は海外の勢力に押されている状態です。人口が減り内需が減少した先の未来も不透明で、社会全体に不安感が蔓延しています。」

松井「私は、働き方や生活そのものを改革する必要性を感じていますが、それには新しいトライが欠かせません。一気に成長を遂げた深圳の取り組みも含めて、広い視野を持って「新しい」を取り込んでいく必要があると思います。」

藤岡「これから先は、IoT化に対して免疫のない人たちにこそ、我々が寄り添う必要があると思います。日本は未だに性善説でビジネスが成立している面がありますが、そのままの考えで外に出たら大変な目にあいます。中国をはじめ、文化の違う国と仕事をするということはどういうことか、その前提から見直して挑む必要があります。日本側に大きな心で挑む覚悟がない限り、日本で軽いIoTを育てていくことは難しいでしょう。我々はデバイスをただ深圳で製造するのではなく、今の日本の状態を救済する覚悟で動いています。」

それはこの業界にいれば必然的に生まれる危機感ですか。

松井「プレイヤーとして、中国と日本の格差は深刻な問題だと感じています。なんとかしないといけないという気持ちは、みんな持っていると思います。」

藤岡「お客様の中には、日本の金型屋さんに頼んで開発費だけですでに3000万使った後に相談にきた方もいます。当社で請け負ったら試作から量産までしてもそれほどかかりません。中国と日本でこんなにも乖離があるものなのか、と思います。」

藤岡「それに対して、我々は「通信」をひとつの軸にして通信のデバイスで攻めようと考えています。この分野は5GやLPWA(Low Power Wide Area)など無線が決まれば、フォーマットができて世界的に使用されるモジュールやICチップがコモディティ化するんです。深圳はその中心にいるので、そうした部品がごろごろしていて、それをうまく利用すれば日本のIoT化はほとんど解決できるんです。」

ソフトの面はどうですか。

松井「AWS(アマゾンウェブサービス)や通信とクラウドを融合したIoTプラットフォームを提供している株式会社ソラコムの存在がやはり大きいですね。今まではサーバーを建てるにしても環境構築からアプリからサービスっていうのにすごい時間がかかっていたのが、ワンクリックで済むようになりました。」

藤岡「ただ、深圳がIoTの最先端というわけではありません。0→1のイノベーションが起こっているのはアメリカです。我々が深圳を活用しているのは、あくまで10を100にするイノベーションがあるからです。」

これから日本に対しては、どのように働きかけていこうと考えていますか。

松井「日本発のサービスをサポートする立場として力をつけたいと思っています。日本からは高齢者向けやヘルスケアのサービスが生まれることが多いので、そうしたものを将来的に海外に展開する際の支援も行いたいと考えています。」

藤岡「今までは、日本の企業相手に中国の設計だけで対応していると、不安がられることが多々ありました。全てのやり取りを中国とやるのかと。しかし、今こうして松井さんのところと業務提携をしたことで、何かあった時に日本にも頼れる人がいると安心していただけるようになりました。
これまで2,3年に一度、深圳の工場を拡張して捌ける数量を増やしてきましたが、深圳の家賃も高くなる一方なので、これからはより受注金額の高いものも手がけられるようにならなければいけないのも現実です。そのためにも、日本の中堅企業ともっと組めるような環境を整えていく必要があると感じています。 」

松井「JENESISとミラが共同で開発や製造をするようになるまでは、ハードウェアとソフトウェアは別々の会社にお願いして、お客様自身がアプリの会社とデバイス設計のエンジニアとそれぞれやりとりしなければいけませんでした。それが、まず我々がどういうビジネスをしたいのかという企画の部分をヒアリングし、サービスを設計・仕様化して、その上でハードウェアの量産を見据えたサポートをJENESISがしてくれるので、お客様の負担は相当軽減できると思います。ソフトとハードの結合部分で起こりがちな専門性の違いによるコミュニケーションの破綻も防ぐことができます。」

藤岡「今はお客様もIoTが専門でない方がすごく多いので、社会に寄り添う必要があります。積極的に新しい取り組みを行える環境の中で、我々はそれに沿う体制を着実に形にできているのではないでしょうか。」

目次
  1. #1 特集|「IoT」とはなにか。
    主役になる”モノ”たち。
  2. #2 特集|「IoT」とはなにか。
    JENESIS社長インタビュー | 第一線で見つめ続けてきた者が語る「日本のIoTの現在と未来」
  3. #3 特集|「IoT」とはなにか。
    「IoT」が根付く仕組み。