- 副島直樹
太陽生命保険株式会社
代表取締役社長 慶應義塾大学出身。1981年に太陽生命保険相互会社入社。2004年に太陽生命保険株式会社、企画部長に就任。東証一部への株式上場を手がける。その後取締役専務執行役員などを経て2016年に代表取締役副社長、2019年に代表取締役社長に就任する。
技術は手段である
今回はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。まずお聞きしたいのは、お二人のつながりです。どのようなヒストリーをお持ちなのでしょうか
池田:私と副島社長とのつながりは、学生時代にまで遡ります。学年は副島社長がひとつ上。二人とも音楽にどっぷり浸っていました。共通の友人も多く、年齢に隔てなく仲良くさせていただいていました。
副島:池田社長とは中学、高校、大学と同じです。今のように仕事を通してつながりを持つようになったのは、6年ほど前だったかと思います。池田社長がIT企業を創業されていたことは存じてましたから、ホームページのことで相談させていただいたのがきっかけです。
池田:あの時は、日本屈指の生命保険会社であるということと、副島社長とは古くからの知り合いでありかつ先輩であるという両方が相まって、良いものを提供しなければという想いがより強くありました。チームのメンバーにもそれが伝わり、緊張感がすごかったのを思い出します。
副島:私が企画部長在任中、当社が株式上場を目指すこととなり、その直接の担当となったのですが、とにかく大変な作業や手続きの連続でした。現在、一部上場されている池田社長も、あの苦労をしたのかと思うと、どこか共感するものがありました。池田社長は創業者ですから、苦労はさらに凄かっただろうということは想像に難くありません。
池田:上場手続きは会社も人も育てると思います。当社は2008年に上場していますが、当時はリーマンショック直後で社会は揺れに揺れていました。まだまだガラケー全盛の時代で、社会に蓄積された様々なコンテンツを、インターネット分野につなげていくことをビジネスの主軸にしていました。その後、第4世代の通信規格が現れ、スマホの時代がやってきます。現在は第5世代の通信規格への移行期にありますから、めまぐるしいの一言につきますね。年月を経て今なお、新しい船出を迎えるような毎日です。
双方の企業をつないだ、IT技術の進化は、もはや目覚ましいという言葉を超え、空気のようにあって当たり前という存在になりました。この技術は今後、どのような意味をもつとお考えでしょうか。
副島:まず、当社の歴史から話さなければなりません。当社は創業が明治26年で保険事業会社としては後発でした。さらに、太平洋戦争以前と以後とで劇的な変化を遂げます。戦争によって、今までの資産を全て失い、また一からスタートすることになりました。当時、生命保険会社は、企業がお客様でした。BtoBが基本です。しかし他社と同じことをしていたのでは市場で生き残っていけないと考え、我々は「家庭」をお客様にしようと大きく転換したのです。地道に一軒一軒、ご家庭を訪問し、保険を販売してきました。
池田:太陽生命の商品は大変ユニークなものが多いですよね。同時に、一貫したコンセプトを感じることができますが、「家」を見続けていると聞いて、深く納得ができました。IT分野もまた、お客様を見続けていく姿勢が重要です。お客様は変化する、それがつまり我々の変化にもつながります。
副島:現在に至るまで、当社は「家庭」というマーケットを大切にする姿勢を貫いています。かつて家庭には主婦である女性がいらっしゃいました。そのため我々も女性向けの保険商品を開発し広く支持されました。一方、近年女性の社会進出や活躍がめざましく、一方、高齢化も進行し、家庭には高齢者がいらっしゃいます。そのような環境になれば、必然的に保険商品も変化します。当社が業界に先駆けて認知症治療保険を販売できたのも、家庭にいらっしゃる方々が何に困っているのかを常に考え、辿り着いた結果です。女性が家庭にいて、男性が働きに出ていた時代と比べれば、現在の環境は非常に複雑です。それでも、「家庭」に寄り添う当社の姿勢は不変であり、我々は常に「家庭」のニーズを考えています。
そして、そのことはIT技術も同じと捉えています。現在、ほぼ全ての人がインターネットを使用しています。当然「家庭」もIT技術の恩恵を受けています。同時にIT技術は、保険販売するオペレーションを強化する側面もありますし、お客様の利便性を高めるためにも非常に有益です。しかし、家庭にいらっしゃる方々の中にはインターネット等のIT技術を得意とする方、不得手とする方ともいらっしゃいます。そこで我々のような生命保険会社は、IT技術を取り入れ、顧客ニーズに合致し、誰にでも受け入れられるサービスを提供することで、そのような垣根を取り払うことも可能だと考えてます。先端技術を知り、開発していくことは、自社にとっても社会にとっても非常に有益だと考えています。
池田:社会全体やライフスタイルは常に変化しています。もちろんその裏側には日々進歩する技術があるから、ということもありますが、やはりより便利に、より安心にしたいという人間の欲求が為せるものなのではないでしょうか。ビジネスは、その欲求にコミットしていくわけですから、おのずと様々なものが生まれていきます。ITは確かに社会において全く新しいインフラとして台頭してきましたが、一方で人の営みを見つめることが、本質的な社会やビジネスの変化を読み解く上では必須であることに変わりはないと思います。
「作る力」の創り方
となると今度は、技術をあつかう、商品を考える人材の話になってきます。企業を次の時代へと進めていく人材に何を期待し、どのように向き合っているのでしょう。
池田:今ではIT技術が、様々なジャンルや場面において応用され、日常生活を支えるようになりました。たとえば、スマートフォンは現代の人にとって日常的に触れるものです。この環境を利用して病気を予防したり、健康でいるための仕組みを作るといった次のIT活用が世界中で始まっています。
新しい発想を形にする時には、その分野、例えば生命保険に対する専門知識の観点から考えを膨らませる方法と、使用する技術の観点からアイデアを練る方法があります。現代では、できれば両方あることが求められる。我々で言えばIT技術を持っていますから、次には保険に対する知識や、そこで働く人たちの動きやニーズを深く知る必要があります。すると、新しく提案出来ることが見えてくる。だからこそ当社では、単なる技術者ではなく常に提案者であることの重要性を伝えています。
副島:成果が出せる人は、仕事やプロジェクトを遂行する際、より良いものを求めもうひと粘り出来る人だと思います。頭の中で考えるか、実際の作業として行うのかはケースバイケースですが、時間の有る無しに関わらず、実現したいと思ったことに対してしつこく、一歩でもそこに辿り着こうと努力する人が成果を生み出すのではないかと思います。
例えば、生命保険業界では膨大な量の印刷物を使います。そこで、ペーパーレス・キャッシュレスの仕組みを構築しようと会社が決める。方法は無限に存在します。取り組み次第では、斬新で洗練されたものが出来る場合もあるし、現在存在するものを寄せ集めた方が最適となる場合もあります。誰かがアイデアを出しただけで、求めるものが直ぐに出来るわけでは決してありません。アイデアのある人が、こういうものが作りたいと直接作り手と熱く話し合うコミュニケーションが非常に大切です。実際、私自身は先達たちにそのように育てていただきました。当社は、何事に対しても常にコミュニケーションを図り熱く取り組む姿勢を持ち続けることを意識しています。
池田:とてもわかりやすいお話ですね。私は、企業経営をするにあたり、やりたいことをやれる会社であることがひとつの属性であるべきだと考えています。ただ、本当にやりたいことができる人はごく少数しかいませんし、実際簡単なことではありません。IT企業は技術をベースに、何もないところに何かを作っていく力があります。今、御社と様々なお仕事をさせていただいていますが、実はこの「作る力」は生命保険会社にも通ずるところがあると感じています。
副島:保険会社は常にお客様のニーズを把握し、商品開発やサービスを提供していく企業です。かつて、これが縦割り組織で行われていましたが、現在は様々な部署から人材を集め、プロジェクト化させながら、商品開発等を行っています。社内はもちろん、社外の協力も得ますから、この有機的なスタイルが新しい「作る力」を育むようになっています。
何かを実現したいとき、考えているだけでは何も始まりません。とにかく行動することが大切です。本当にやりたいことが何かと聞かれても、明瞭に答えられる人は少数です。実際に行動している人はさらに少ないと思います。自分がやりたいと思っていなかったことでも、実際にやってみて成果が出ると仕事は面白くなることが多々あります。そのことに一生懸命取り組んでいる人にも出会います。それを尊いと思うかどうかで結果は違ってきます。だからこそ、横断的な人材の集積は、我々の作る力、実現する力を大きく伸ばしてくれます。
私は、そのことを理解するのに時間がかかりました。若い頃、この仕事が自分に向いているのか大いに悩みました。それでも様々な業務を行っていく中で、多くに人との出会いがあり、思ってもみない成果が生まれたこともあります。その経験の蓄積によって、面白いと思えることが増え、また横断的な人材の集積が重要であると気付かされたのです。
決断の物語とその責任
道を切り拓くという意味において、法人にとって意思決定を担う経営者の存在は必要不可欠です。お二方は上場企業のトップでいらっしゃいますが、経営者とはどのような存在だとお考えですか。
池田:私は、経営者とは大きな船の船長のような存在だと考えています。航海するための準備をして、目指す方向に舵を切っていく。別の見方で説明すれば、私も音楽をやっていたのでオーケストラで考えることもあります。様々な音をひとつのハーモニーにしていく、経営者とはそんな役割も担っているのかなと感じることもあります。
副島:よく理解できます。特に、船長という言葉はしっくりきます。経営者の機能は「意思決定」につきます。そもそも道筋も決め方も無数にあるなか、ひとりの意思決定に従って動いていく場合も、多数の意見を取り入れながら進んでいく場合もあります。経営者はそれを、最適だと思うものを選択し決めることが求められると同時に、決めたからには成果を出さなければなりません。だからこそ、ベストな方法を選択したいと常に考えます。
オーケストラの話をされたので、私も音楽の話をしますと、バンドをやる時、最初は自分が弾くことだけに一生懸命になるものです。しかし、他の人が弾いている音を聞いて自分の弾き方を考えて実行すると、バンドとしての音がすごく良くなることに気付きます。この瞬間が本当に素晴らしいのです。会社で働くことも同じだと考えています。周りがどのように動いているのか、社会がどのように変化していくのかを良く知ることが大切です。経営者はそれらに耳を傾けながらベストと考えられる音を紡ぐのです。
20年前には10年ひと昔とされたのが、IT黎明期にはドッグイヤー=1年が7年に相当する進化と言われ、今はもはやどうなっているのかわからないほどです。この時代をお二方はどのように見ていますか。
池田:これだけ変化の早い時代においては、何かを予測するのはますます困難です。どのスパンで未来を考えるかにもよると思うのですが、今は政治も経済も価値観もどんどん多様になり、同時に複雑になっています。ただ、それが悪い方向に向かっているとは私は考えていません。技術が進歩していくことで、人はより自然な状態でいられるのではないかと思っています。
自然というのは、緑を大切にということはもちろんですが、広い意味でのゆとりある生活というイメージです。技術が我々の”苦労”を助けてくれるという思考ですね。
副島:私個人というより、生命保険業に携わる立場として話させていただきますと、大きく3つあると思っています。
まず、生命保険業は、社会保障制度では補いきれない領域をカバーする業界です。個人の力だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対して、社会全体で支え合う仕組みである社会保障制度が存在します。生命保険業はその周辺領域や隙間等をサポートするために仕組みを構築してきました。現在は、高齢化が進行し国の社会保障制度では補いきれない領域が増えています。逆に言えば、周辺領域が拡大し、生命保険業の役割は必然的に大きくなると考えています。そして、社会的責任も増していくでしょう。そのような中、当社が将来どのような役割を果たすのかということが非常に重要だと考えています。
池田:現在、太陽生命さんの様々な商品におけるIT面でのサポート業務に関わらせていただいていますが、どの商品にもおっしゃる狙いが見て取れます。社会的な情報をポジティブに捉え、力に変えていく姿勢には学ぶことが多いです。
副島:もう一つは、当社が機関投資家という立場であるという点ですね。機関投資家とは生命保険会社の他に、信託銀行、政府系金融機関など大量の資金を株式や債券で運用する大口投資家のことを指します。その中でも生命保険業は今後も高い競争力を発揮出来る業界だと考えています。社会に必要な企業や、未来を担う新しい可能性を持った企業に対し、プロとして適切な投資や助言を行っていくことが、我々に課せられた使命です。この立場にいる者として、未来はさらに面白くなるということを密かに感じています。
そして最後に、私たち自身を取り巻く安心安全な社会に関することです。自然災害もそうですし、世界情勢も同様です。保険会社としても機関投資家としても、この安心安全を守ることは重要な指針であり、日本で生きていく上で安心安全な社会を構築するためには、国内の様々な分野が活性化していることが欠かせません。私は、このテーマに対して、国内の生命保険会社のような機関投資家がしっかり支えていくことが非常に重要だと考えています。日本で生きる人たちの大切な財産を預かり保障を提供しているのが我々の重要な役割です。この点においても、生命保険業というのは今後より必要とされる業界になると考えています。当社はシニアナンバーワンの生命保険会社であることを揚げ活動しています。今後も様々な業種の方々と協力し、安心安全な社会の新しい発展に寄与していく所存です。
この度はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました
おわりに
当コンテンツ「つながり」シリーズは、当社グループの代表取締役社長である池田が持つ「つながり」を具現化していくものです。第一回目の対談が終わり強く感じるのは、個性の異なる雌雄から新しい価値をもつ個体が生まれるように、強い「つながり」こそが社会に新しい価値を生み出す母体となりうるのだという確信です。すべての出来事には「つながり」という物語があります。そこには、責任、意識、姿勢といった個人、法人双方における”人の品格”がパッケージされています。親しいということだけでは生成できない味わいがそこにはあります。
社会は、大なり少なりの無数のつながりに満ちています。太陽生命様とのつながりにおいても、今後さらなる社会的価値が生まれていくとともに、そこから新たなつながりが発展していくことでしょう。