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NODE ep.1 2004-2008

第1章 急拡大

2004年から2008年にかけて、モバイルインターネット業界の急成長と共に、新たに誕生したプライムワークスは急速な飛躍を遂げます。第3世代通信サービス(3G)の普及により、NTTドコモをはじめとする通信キャリアが市場をリードし、パケット定額制の登場などモバイルの活用はますます活発化。プライムワークスもモバイル端末での新たなコンテンツ体験を提供すべく、通信キャリアや端末メーカーとともに挑戦を続けました。特に電子コミックや着せ替えコンテンツは業界に革新をもたらし、確かな実績を築いていきました。

NODE ep.1 第1章 急拡大

シャープとの協業

プライムワークスが立ち上がってからというもの、忙しい日々が続いた。ターゲットとするモバイルマーケットは急速に拡大。例えばNTTドコモは2004年度売上高約4兆8000億円を叩き出し、3G通信サービス「FOMA」や、パケット定額サービス「パケ・ホーダイ」など新たな通信サービスが次々と市場に投入され、業界全体の驚異的な変化を象徴していた。一方で、日本の大企業におけるモバイルインターネット市場へのフットワークは重く、特に家電に特化した大手メーカーたちは思わぬ形で出遅れていた。新たなフィールドに迅速に対応できず、市場拡大に必要となるソフトウェア開発が遅々として進まなかったのだ。そうした中プライムワークスは、大手のしがらみから抜け出て、積極果敢にソフトウェア開発の道を突き進んでいった。その姿勢に興味を抱き、様々なプロジェクトを持ちかけてきた企業は多く、その筆頭がシャープであった。

新時代の幕開け

シャープの携帯電話向けに新しいタイプの待ち受けコンテンツを開発したことが、両社協業の第一歩となった。2005年、プライムワークスがアプリケーション開発に参画した日本初の着せ替え機能「カスタムスクリーン」を搭載したシャープ製端末が発売。同時に、ボーダフォン(現ソフトバンク株式会社)のユーザー向けにこのカスタムスクリーンを配信するサイト「カスタモ」をシャープと共同で立ち上げた。当時のシャープといえば、2004年に立ち上がった「世界の亀山モデル」が生み出す液晶プラズマ製品や携帯電話では「写メール」など、新機軸の製品で世の中を席巻していた。プライムワークスは創業間もないベンチャー企業であったが、NEC出身で事業理解も深い池田の存在は日本大手メーカーとも対等に渡り合えた。さらに、NEC時代に培ったコンテンツホルダーとのアライアンスにより、「カスタモ」は開始後よりラインナップを次々と拡大させることに成功する。サンリオ、手塚プロダクション、水木プロダクション等のキャラクターコンテンツから、写真、動物、アート作品に至るまで多彩な分野に拡がり、2008年頃にほぼ全ての通信キャリアで提供されるサービスにまで飛躍した。

カスタムスクリーン機能により、待受画面、電波状態アイコン、着信やメールの送受信画面など統一されたテーマで一括カスタマイズすることができた

この頃、プライムワークスの事業は「プラットフォームソリューション」と、「サービスソリューション」の二本柱で展開されていた。急成長する携帯電話市場には「カスタモ」などのプラットフォームソリューションで応じ、一方のサービスソリューションは通信インフラの整備によって拡大する法人のWebサービス需要をしっかりと捉えていた。当時、企業がこぞってWebサイトへ投資し始めたことから、サイトの構築依頼が急増。リソースはいくらあっても足りない状態であり、2004〜2005年にかけての活動は攻めの一手であった。「カスタモ」と並び、創業初期を象徴するサービスである「コミックDC」が生まれたのもこの頃である。現代では当たり前となった「電子コミック」だが、当時の携帯電話の小さな画面でコミックを読むというアイデアは、破天荒ながら画期的であった。のちに株式会社セルシスとの出会いにより実現した、この携帯コミック配信サービスは、まさに創業前夜に池田が思い描いていたモバイルによる新しいコンテンツ時代の具現化であった。

セルシスとの出会い。

コミックを電子書籍化してモバイルで閲覧する――2000年代初め、これは簡単なことではなかった。PC向けの電子書籍は世に出始めていたものの、モバイルでは画面サイズの小ささが問題となっていた。書籍は画像化すればさまざまな端末で見られる。だが、折りたたみ式携帯の小さな画面では全く読むことができない。現代のように画面をタッチして拡大縮小する機能など、世の中に登場すらしていない。当時の携帯では、書籍は元よりコミックの特徴的なコマ割りを読み進めることは不自由極まりなかった。とはいえ、コミックの電子化はモバイル分野にとって垂涎のコンテンツであり、出版社にとっても念願であった。

池田には、NEC時代にPCでの電子書籍開発に携わっていた経験がある。百科事典、辞書、小説と幅広い分野の書籍が電子ブックとして姿を変える様を見て、彼は既にコミックの電子化に大きな可能性を感じていた。しかし、「どうやってこの構想を実現するのか?」その答えは見つからず、もどかしい日々を送っていた。
そんな折、運命的な出会いが訪れる。オーサリング事業を生業とする株式会社セルシスとの邂逅である。セルシスは当時、アニメ制作現場の効率化のため、コミックをコマごとに切り取れる革新的なオーサリングツールを開発していた。その存在を知ったのは、シャープとの「カスタモ」共同展開の流れでのことで、とあるコンテンツホルダーとアニメ制作現場の話になったことがきっかけだった。その後セルシスを訪れ、ツールを目の当たりにした瞬間、池田の中で燻っていたわだかまりが一気に解消された。「これだ、これでコミックをモバイルに届けられる!」。

コミックDC誕生。

池田は即座にセルシスとの連携を進めていった。オーサリングツールは完成していたが、インターネットを介した活用、コンテンツプロバイダ(CP)の配信方法などはプライムワークスが強みを発揮することになる。まずサーバーを整え、セルシスのツールを組み込み、CPである出版社がオンライン上でコマ割の電子コミックを生成できる環境を作り上げた。そして読み手には月額制のサイトを用意し、出版社が提供する電子コミックをいつでも好きなだけ読めるようにした。サービス名は「コミックDC」。これがプライムワークスの知名度を一気に押し上げることになる。
「コミックDC」は市場に革新をもたらし、驚異的なスピードで成長した。なにせ、当時はこのサービスでしかモバイル上でコミックが読めなかったのである。参入CPは増え続け、作品の増加とともにユーザーの評価も上がっていく。唯一の課題はサーバーだった。今のようなクラウド技術もなく、山積みされた物理サーバーはユーザー拡大による過負荷に耐え切れずどんどん壊れていく。月に10台20台なんて数ではなかった。サーバー管理チームはまさに戦場の日々であった。

マンガの静止画データを配信用のASPサーバへアップロードするだけで、携帯電話向けに自動でデータ変換を行い電子コミックとして配信が可能

しかし、その甲斐もありビジネスは大きく花開き、「カスタモ」と並ぶ主力事業としてプライムワークスの成長を牽引した。
業績も順調に推移し、初年度約3億円だった売上高は、2年目には約3倍の9億円まで拡大。その後も右肩上がりで増収増益を続け、創業5年目にして東証マザーズへの上場を果たすこととなる。電子書籍業界の常識を覆し、新たな市場を切り拓いたプライムワークスは、モバイルコンテンツ企業として確固たるポジションを確立していた。